Willowroad2006-12-31

梅田望夫/平野啓一郎両氏の対談形式で書かれた「ウエブ人間論...ウエブの進化によって人間はどう変わるのか」を読む。考えてみると社会情報学のようなアカデミックの分野ではネットワークのの社会や行動パターンに及ぼす影響などはいろいろ論じられるようになってきているがまだこれだというものには残念ながらめぐり合えていない。この気鋭の作家とネットの論客でビジネスマンでもある両氏の対談は不思議なほどかみ合っていていくつか新鮮な視点をもたらしてくれる。対談は対談であって研究書や梅田氏の他の著作と無理に結びつけて読み解く必要はないと思う。これはこれで完結した「今」の課題提起として読みたい。印象的なところはたくさんあるので書き切れないが、ひとつ、ハンナ・アレントが50年前に「人間の条件」の中で言論と活動によって結び合わされた世界をウエブと表現していることを引用し、現代のウェブ世界が人間関係そのものに深く影響を及ぼすのではという論点に興味を引かれた。アレント全体主義と近代について、人の結びつきの崩壊という視点から鋭く切り込んだ。現代のウエブによるあらたな人の結びつきの形はどのような世界をもたらすのであろうか。これからの議論と研究が楽しみである。逆に書かれていないことが印象的だった点として、この本に描かれている「ネットの世界」にはマイクロソフトサン・マイクロシステムズなどかってITビジョンを見せていた企業の名前がまったく登場しない。あくまでネットのサービスの世界の側面から書かれている本なのでそれは当然なのはわかっているのだがITの発展の軸が「こっち」にきてしまっていることをあらためて実感した。